祈りの巫女39
 その日は早朝から、あたしは忙しい思いをしていた。
 夜が明ける前に目覚めて、迎えにきた聖櫃の巫女に連れられて、あたしは神殿に続く山道を登った。途中で道をそれて、小さな川のそばまで行く。そこで今まで着ていた服を脱いで、川の水で身体を清める。春先の川の水は冷たくて、病み上がりの身体にはちょっとだけきつかった。
 そこで普通の巫女の衣装に着替えて、神殿まで歩く。その間に付き添いの巫女達の人数が増えてきて、あたしは周りを巫女達に囲まれながら、静々と山道を歩いていった。神殿の周りにも巫女や神官達が大勢いて、厳粛な雰囲気のみんなの間をあたしは歩いていく。誰も口をきかなかった。ぜんぶ練習どおりだったのに、なんだかあたしは緊張してしまって、聖櫃の巫女の後について完成したばかりの祈りの巫女の宿舎に入った。
 やっと息をつく。宿舎の中には、祈りの巫女の衣装を用意したマイラが待っていてくれたから。
「マイラ……」
「大丈夫よ、心配しないで。さあ、衣装に着替えましょうね」
「心配してるわけじゃないの。なんだか儀式の練習をしたのがすごく昔のことみたい」
「少しくらい手順を飛ばしたって誰も気付かないわ。それよりきれいなユーナになるのが一番。爪はあんまり染まらなかったわね」
「昨日も今朝も少し塗ったの。でもやっぱりダメだったの」
「いいわ、このくらい淡い色の方が清潔そうに見えるもの。……ほら、すごくきれいよ」
 マイラに手伝ってもらって衣装を着けると、それまで何度か試着してきたのに、その時とはぜんぜん違って見えた。
「なんだかドキドキしてきちゃった。ぜったい何か間違えるよ」
「大丈夫よ。ユーナが間違えたかどうかなんてあたし達には判らないんだから。堂々としてたら誰にも判らないわ。それより、今日のユーナは一番きれいになることよ。……リョウに見せたいんでしょう?」
 マイラがそう言ったとき、あたしのドキドキは最高潮になっていた。