祈りの巫女36
 そのまま、あたしはマイラの家に上がって、泥だらけの身体を洗ってもらった。そのあと暖炉の前に座って身体を温めた。リョウはあたしをマイラのところに送り届けたあと、あたしの家に知らせに行くと言って出て行った。ベイクも家にいなかったし、もしかしたら他にも何人かの人たちが、あたしを探してくれていたのかもしれない。
 そのことについてはマイラは何も教えてくれなかった。やがて、マイラにスープを作ってもらってだいぶ落ち着いてきた頃、マイラは少しずつ話してくれた。シュウのことを。
「シュウが生まれたときにね、神託の巫女が言ったんだ。この子は長くは生きないだろう、って。だからあたしもベイクも、シュウが死ぬのは判ってたの。判ってたから、生きてる間だけでも幸せにいて欲しくて、シュウのことは本当にかわいがっていたのよ」
 神託の巫女は、新しい子供が生まれたとき、その子の結婚相手や死期、そのほかいろいろなことを予言する。マイラとベイクもすごくつらかっただろう。そして同じくらい、神託の巫女もつらかったんだろうと思った。
「シュウはユーナのことをすごく大切にしていて、家でもユーナのことばかりしゃべってた。ユーナのことが大好きなんだ、って」
 今なら思い出せる。シュウはあたしにすごく優しくて、あたしが何か失敗をしたり、悲しいことがあったりしたとき、いつも必ず慰めてくれた。いつも、ユーナは大丈夫だよ、ぼくが助けてあげるよ、って言ってくれた。何があっても助けてくれた。最後に、本当に命を助けてくれるまで、ずっと。
「あたしもシュウのことが大好きだった。ほんとよ。ほんとに大好きだったの」
「判ってるわ。ユーナはシュウのことを本当に好きでいてくれたから、シュウがいなくなってしまったことに耐えられなくて、忘れてしまうしかなかったのよ。……でもね、あたしは、ユーナがシュウを忘れていたのは、シュウがそうしたかったからじゃないのかな、って思ってるの」
 シュウが、あたしに忘れて欲しかったの……?
「シュウは、自分がユーナを助けて死んでしまったことで、ユーナを苦しめたくなかったんじゃないかと思うの。だから、ユーナに魔法をかけて、自分のことを忘れさせようとしたんだわ」