祈りの巫女33
 あたしはあの時、今と同じように、この沼にはまった。一緒にいたのはシュウ。あたしと同じ年の、一番大好きな男の子だった。
 シュウは蔓草を木に縛り付けて、あたしの方に投げてくれた。あたしは必死でそれにつかまって、でも泥が身体に絡み付いて、どんどん沼に沈んでいった。シュウの伸ばした手はあたしに届かなかった。あたしは怖くて、泣きながらシュウに手を伸ばした。
 そのとき、シュウが微笑んだんだ。いつも優しくて、いつもいじめっ子からあたしを守ってくれたシュウ。そのシュウが沼に飛び込んだ。あたしを、沼の中から押してくれるために。
  ―― ぼくがユーナを守ってあげるから
 シュウのおかげであたしは助かった。だけど、シュウは沼に沈んでしまった。あたしのために、シュウは死んでしまったんだ。
 いつの間にか、現実のあたしは涙を流していた。今まで忘れてたシュウのこと。怖くて、シュウに申し訳なくて、シュウの命があまりに重くて、あたしは記憶を閉ざした。泣きながらあたしは心の中で謝った。ごめんなさいシュウ。今まで忘れていてごめんなさい。せっかくシュウが助けてくれた命を無駄にしてごめんなさい。シュウの未来を奪ってごめんなさい。そしてマイラ、あなたの大切な息子を死なせてしまって、ごめんなさい。
 シュウ、もうすぐあなたのそばに行くから、あんまり怒らないで、優しく迎えてね、シュウ。母さま、父さま、無謀で言うことをきかない娘で、ごめんなさい。神殿のみんな、せっかくあたしのために準備してくれたのに、祈りの巫女になれなくてごめんなさい。
 そのとき、風の音に混じって、あたしを呼ぶ声を聞いた気がした。
 その声はリョウの声に似ていて、あたしはまだリョウに謝ってないことに気がついた。そうだ、リョウにはたくさん優しくしてもらったんだ。リョウにもちゃんと謝らなくちゃ。
 あたしはリョウになんて謝ろうか、それを考えた。リョウにはたくさんの思い出があって、いろいろ思い出していたら、言葉にできなかった。リョウ、あたし、リョウが大好き。……リョウ、あたしまだ死にたくないよ!
「リョウ!」
 そう、叫んだその次の瞬間、森の向こうからリョウが姿を現わした。