祈りの巫女29
 いけないことを訊いたのかもしれない。隠し事をするって、それだけですごくつらいことだから。あたしは気付かないふりをしていた方がよかったのかもしれない。
「ユーナ、あの森は危険なんだよ。他の森も子供には危険だけど、あの森は他の森よりも少しだけ危険なの。だから、小さな子供にはどの親もみんな言って聞かせるんだ。あの森で遊んじゃいけないよ、って」
 視線を森の方に向けたまま、マイラは続けた。
「たぶんユーナはそれを覚えているんだね。小さな頃、行っちゃいけないって言われたこと。だからきっと、この森が怖いんだわ」
 マイラはすごく悲しそうな顔をしていた。だからあたしは、マイラが言ったこと、半分しか信じられなかった。あたしが小さな頃に、母さまはあたしにそう言ったのかもしれない。例えば、あの森にはお化けが出るよ、とかって。
「マイラも小さな頃にそういわれたの?」
「さあ、それはもう覚えてないわね。でもあたしはもう大人だから、森を怖いとは思わないね」
「リョウも大人だから怖くないのかな」
 マイラはやっと振り返って、少しだけ悲しい笑顔を見せた。
「リョウは狩人だから、森のことは何でも判ってるでしょう。いちいち怖がってたら何も捕まえられないわ」
 言われてみればそうだ。森を怖がる狩人なんて、聞いたことがなかったもん。
「あたしも、大人になったら怖くなくなるのかな」
「そうね。ユーナも大人になったら、あの森も優しく迎えてくれるかもしれないね」
 早く大人になりたい。
 大人になったら、森のことも、リョウのことも、何でも判るようになるから。
「マイラ、ありがとう。今日はこれで帰るね」
 マイラはいつもの悲しそうな笑顔で、あたしを送り出してくれた。