祈りの巫女28
 リョウも、母さまも、父さまも何も言わなかったけど、あたしが神殿から帰ってこないのを心配して、みんなで探してくれていたみたいだった。リョウはあの草原に偶然現われたわけじゃない。でも、探していたことも、みんなが心配していたことも、リョウは何も言わなかった。
 あたしは何も教えてもらえない。あたしは子供で、みんなそう思ってるから、あたしの心に負担をかけることは話してくれないんだ。あたしはずっと感じていた。みんながあたしに隠していることがあるってこと。
 生まれて最初の、6歳の時の記憶。あの時何があったのか、あたしは知らない。ずっと考えないようにしてきたけど、昨日のことがあって、あたしは本当に久しぶりにそのことを考えていた。みんなが隠し事をしているのを感じてしまったから、それで思い出したんだと思う。みんなはあたしに言えないことがあって、だからあたしはいつまでも子供のままなのかもしれない。
 儀式の衣装が縫い上がって、あたしはまたマイラの家に行った。相変わらずマイラの家の後ろにある森は怖かった。神殿に続く道の森も、草原の向こうの森も、あたしは怖いと思わないのに、マイラの家の森だけはいつも怖かった。
「あら、ユーナ。爪を染めているんだね」
 衣装をつけて、鏡に映して、衣装をあちこち手で直しながら、マイラが気づいて言った。
「うん、染めた方がきれいだと思うの。マイラはどう思う?」
「あたしもその方がきれいだと思うわ。この分だと、儀式の頃には一番きれいな色に染まりそうね」
 きれいな巫女になりたい。あたしの中にはいろんな思いがあって、きれいになりたいと思うのもその1つだった。大好きなリョウに同じくらい好きになってもらいたい。立派な巫女になってみんなの助けになりたい。大人になって、みんながあたしに言えないことを聞きたい。
「ねえ、マイラ。あたしはどうしてマイラの森が怖いのかな。他の森はぜんぜん怖くないのに」
 マイラは、とても悲しそうな目をして、あたしから目を逸らした。