祈りの巫女25
「どうしたんだいったい。何か嫌なことでもあったのか?」
 リョウは微笑みながらあたしの隣に座った。あたしは、リョウに顔を見られたくなくて、膝を抱えた。そんなあたしの背中を叩いている手がある。泣きたくないのに。リョウに子供扱いされたくないのに。
 リョウはそれきり何も言わないで、あたしが泣き止むのをずっと待っていた。ただ、同じリズムで背中を叩いて。リョウは優しい。リョウは、あたしがずっと泣き止まなかったら、このままずっと背中を叩き続けてくれるのかもしれない。
 やっと、呼吸が落ち着いてきて、涙が止まった。あたしは深呼吸して、涙を拭いて、隣に座ったリョウを見上げた。
 リョウは、さっきと同じように微笑んでいた。
「リョウ……」
「ん?」
「今日ね、神殿に行ったの。そうしたら、祈りの巫女専用の宿舎を建てていたの」
 リョウの手は、まだあたしの背中にあった。叩くのはやめて、今はゆっくりとなでてくれていた。
「あたし、祈りの巫女になるのが怖い。みんなの期待が大きすぎて、裏切りそうで、怖いの」
 背中をなでていたリョウの手が、あたしの頭の上に乗せられた。
「怖がることなんかないよ。ユーナは神託の巫女が予言した、祈りの巫女なんだから。ユーナには、生まれたときから祈りの巫女になれる資格があるんだよ」
「……資格なんかないもん」
「ユーナにはその資格があるよ。それは、他の誰も持ってない、ユーナだけの資格だ。……例えばさ、もし仮に、ユーナにその資格がなかったとするよ。そうしたら、悪いのは間違った予言をした神託の巫女だ、ってことにならないか?」
 あたしははっとした。もしもあたしがちゃんと祈りの巫女になれなかったら、あたしが祈りの巫女だって予言した神託の巫女にまで迷惑をかけることになるんだ。