祈りの巫女24
 セトに別れを言って、作業中のみんなに深くお辞儀をして、あたしは来た道を戻り始めた。判ってる。みんなあたしのことを考えてくれて、あたしが過ごしやすいように、祈りの巫女の使命をまっとうできるように、心を砕いてくれる。巫女が1人増えるのは、神殿にとっても大変な事だった。みんなだって、あたしと同じように戸惑っているんだ。
 帰り道は、すごく足が重かった。そろそろあたりは暗くなりかけていて、あまり暗くなってから山道を歩くのはよくないことなのだけど、足取りはなかなか進まなかった。村の明かりが近づいてきたけど、母さまに会って何を話せばいいのか判らなくて、とうとう昨日リョウと話した草原に座り込んでしまった。
 祈りの巫女になるのが怖かった。もしもあたしが、みんなが期待するような巫女になれなかったら、親切にしてくれたみんなの気持ちを無駄にしてしまうんだ。言葉では何も言わなくても、「どうしてユーナのためにこんなことまでしなければならないの?」って思って、嫌な気持ちになる人だっているかもしれない。あたしよりも祈りの巫女に向いてて、すごく祈りの巫女になりたい人だっているかもしれない。そういう人たち全員を、あたしは裏切るかもしれないんだ。
 草原に座りながら、あたしは昨日リョウに言われたことを思い出していた。何かをしたいと思って、それから祈りの巫女にならないといけない。あたしにやりたいことなんてない。あたしは祈りの巫女になりたくない!
 ……でも、祈りの巫女にならなかったら、今一生懸命宿舎を建ててくれるみんなを裏切ることになるんだ。
「ユーナ、こんなところで何してるんだ?」
 声に気付いて顔を上げたら、あたりはもう真っ暗になっていて、目の前にリョウが立っていた。
「リョウ……」
「またなんかオレに聞いてもらいたいことでもあるのか?」
 リョウの笑顔と優しい声が、今まであたしの心の中につまっていたなにかを、一気に取り除いてくれた気がした。リョウの顔が歪んで見えて、あたしは涙を流してることに気が付いた。ほんとはリョウの前で泣きたくなかった。だけど涙は溢れて、息が苦しくなって、あたしはリョウの顔を見ながらしゃくりあげるように泣いていた。