祈りの巫女22
「なんか変な時に来ちゃったみたい」
「そんなことはないよ。ただ……ごめん、一言みんなに断わってくるな。探してるといけないから。ここで待ってて」
 セトがあたしのお茶の準備を簡単に済ませて、あわただしく宿舎を出て行ってしまった。やっぱり、あたしはきちゃいけなかったんだ。食堂のテーブルでセトが入れてくれたお茶を飲みながら、あたしはセトが戻ってきたらすぐに家に帰ろうと思った。忙しいみんなの邪魔をしちゃいけないから。
 そうして、しんとした食堂でセトを待っていたら、遠くの方で何か音が聞こえた。かんかんって何かを叩いてるような、すごくよく響く音。よく聞いてみると、その音は釘を打つ音にとてもよく似ていた。神殿の向こう側から聞こえてくる。
 あたしはそっと窓に近づいて、音のする方を目を凝らして見た。でも、神殿に隠れていて、何をしてるのかはぜんぜん判らなかった。ちょっと迷ったけど、あたしは宿舎を抜け出した。そして、神殿の向こう側に何か建物を作っているのを見つけた。
 神殿から見て右側には、いくつかの巫女達の宿舎がある。あたしがさっきまでいたのは左側の神官達の宿舎だから、今作ってるのは巫女の宿舎だ。3日前までは影も形もなかった。もしかして、今作っているのって、あたしが祈りの巫女になるのと関係があるの?
「あ、ユーナ! ……見つかっちまったか」
 あたしに声をかけたのはセトだった。作業していた人たちも、気付いてあたしを振り返った。
「……なに? どうしたの、これ。もしかして、あたしの……?」
「儀式の日までは秘密にしときたかったんだけどな。見つかっちゃったんだからしょうがない。察しの通り、君の宿舎だよ。祈りの巫女がこれから住むための宿舎を作ってるんだ」
 信じられなかった。巫女達は、神殿の右側の宿舎にみんなで住んでいる。専用の宿舎を持っているのは守護の巫女と聖櫃の巫女だけだった。運命の巫女も、神託の巫女も、他の名もない巫女もみんな同じ宿舎にいるから、それだけでもあたしが専用の宿舎を建ててもらえるのは異常事態だった。
「どうして? あたしはみんなと同じでいいよ。だってあたし、まだぜんぜん祈りの巫女じゃないのに」
 もしもあたしがこれから先、すごく立派な巫女になって、みんなに尊敬されて、それで宿舎を建ててもらえるのならわかる。でも、今のあたしが新しい宿舎を建ててもらっていいはずない。