祈りの巫女21
 神殿は東の山の中腹にあって、あたしの足だとかなり歩かなければいけない。でもお夕飯までには戻りたかったから、あたしはできるだけ急いで、その山道を登っていった。つい3日前まではあたしは神殿の宿舎でずっと修行していて、祈りの巫女になってからは時々自宅に帰る以外はずっと住まなければならない場所だから、あたしにとっては第2の家って言えるような場所だった。
 見慣れた道を辿って、やっと神殿の建物が見えてくる。誰かいないかと思って見回しながら石段を登りかけると、建物の中からセトが出てくるのが見えた。
「ユーナ? ユーナじゃないか」
「こんにちわ、セト。来ちゃったけど大丈夫だった?」
「驚いたな。そこにいて、降りていくから」
 セトは神官の一人で、大人の男の人だった。もう結婚もしていて、子供も何人かいるのかな。セトは毎日神殿に通っていて、あたしは神殿でしか会ったことがなかったから、セトの家族のことはよく判らなかった。
 階段を降りてきたセトは、あたしをさりげなく宿舎の方に促しながら言った。
「まさかユーナがくるなんて思わなかったよ。儀式の日までは暇をもらってるんだろ?」
「うん、そうだけど……。なんか落ち着かないの。家にいても何もすることがないし」
「祈りにきたの?」
「そうね、神様に祈りたい気分かもしれない」
「残念だけど、今神殿には入れないんだ。君の儀式の準備があるから。宿舎でお茶でも飲みながら少し話そうか」
 もしかしたら、あたしはきちゃいけなかったのかもしれない。セトの態度も落ち着かなかったし、宿舎に入っても中はがらんとしてて誰もいなかったから。みんなきっと、あたしの儀式の準備があって忙しいんだ。