祈りの巫女13
 春先の森は若葉をつけていて、あたしは木々の木漏れ日の道を歩いた。音を立てないようにゆっくり、リョウに気付かれないように。しばらく歩くと、リョウのうしろ姿が見えた。リョウはその場所に座っていて、周りには誰の姿もなかった。
 しばらく、息を殺していると、リョウの声がかすかに聞こえた。
「……おまえは、許してくれるのかな……」
 聞き取れたのはそれだけ。もしかしたら、それだけしか話さなかったかもしれない。
 リョウは傍らにおいてあったお酒の瓶に口をつけて、残りを全部草むらにこぼした。そして、立ち上がる。いきなり振り返ってこっちに向かって歩き始めたから、あたしはあわてて木の陰に隠れようとした。だけどダメだった。リョウはあたしに気付いて、驚いたように目を見開いた。
「ユーナ……いつからそこにいたんだ?」
 リョウは驚いてはいたけど、あたしを怒ってはいなかった。だいたいリョウが怒ったところをあたしは見たことがなかった。
「まだ来たばっかり。今リョウが言った一言しか聞いてないよ。リョウはその子とケンカしたの?」
 リョウはちょっと呆れたように微笑んで、森の道を戻り始めた。
「ケンカをしたんじゃない。……例えばね、オレがこれからどうしてもしなければならないことがあって、だけどそれをすることが相手にとっていいことなのか悪いことなのか、判らない。決心がつかない。そんな時、ユーナならどうする?」
 リョウは、その子に許してもらえるかどうか判らないことを、しようかしないでいようか悩んでいるんだ。
「直接訊いてみる、その子に。そうしてもいい? って」
「ユーナはそう言うと思った」
 リョウはまた微笑んだけど、あたしの答えを納得したんじゃないのはあたしにも判った。