祈りの巫女15
 リョウは家への帰り道を歩いていたのだけど、このとき突然道を変えた。あたしはリョウの後について、草原の方に向かうその道を歩き始めていた。
「ユーナはいったい何を悩んでるんだ?」
 リョウは、もしかしたらあたしの悩みを聞いてくれるつもりになったのかもしれない。
 あたしがずっと、リョウと話したいって言ってたから。
「自分でもよく判らないの。小さな頃から祈りの巫女になるんだって言われて、神殿で祈りの巫女になる勉強をして、勉強はぜんぜんつらくも苦しくもなかったし、楽しかった。13歳で称号を継ぐことになったって、今までしてきたことと何が違うわけでもないって判ってるの。祈りを神様に届けて、みんなの役に立って、それってすごく嬉しいことなの。あたしが祈ることで幸せになる人がいたら、あたしだって幸せになれる。こんなに幸せな仕事はないよね。それなのに……なんかね、心がもやもやするの。ほんとにこれでいいのかな、って思うの。どうしてそう思うのかもよく判らないの」
 話しても、あたしが本当に何を悩んでいるのか、自分でもよく判らなかった。あたしは祈ることは嫌いじゃないし、勉強も嫌いじゃない。神殿の人たちもみんないい人で、あたしに優しくしてくれる。嫌なことは何もないのに、もやもやが抜けない。一生懸命楽しいことを考えるのに、もやもやが邪魔してちゃんと楽しくならないの。
 薄暗くなりかけた草原に腰掛けて、リョウはいつものようにあたしに微笑んだ。
「ユーナ、オレはユーナが祈りの巫女になるのは嬉しいよ」
 リョウはいつも優しい。誰にでも、あたしじゃない人にも。
「だけどオレがそう言っても、たぶんユーナのもやもやは消えないよ。……オレはさ、狩人になるって思った時、ほんとにそうなりたいって、自分で思ったんだ。オレは畑を耕すこともできたし、誰かの工房に弟子入りしてもよかったし、商人にもなれた。だけどオレはどんな仕事よりも、狩人に一番なりたいと思ったんだ。……どうしてだと思う?」
 リョウの隣で、あたしは首を振った。