祈りの巫女12
「その男の子は花が好きなの?」
 マイラはまた少し笑った。
「さあ、どうなのかな。判らないけど、あたしはいつも花を持っていくね。ユーナ、ユーナはリョウのことが好きなの?」
「うん、大好き」
「だったらそっとしておいておやり。今日はリョウの大切な約束の日なんだ。誰にでも大切な1日があるんだよ」
 あたしにもある。あたしにとっての大切な1日は、9日後の儀式の日。あたしが大人になる日。
 そして、今日はマイラの大切な1日でもあるんだ。
「お茶、ありがとう。おいしかったわ」
「まっすぐ帰りなさいね」
「判ったわ」
 あたしはマイラにお礼を言って、そのまま坂を降りた。今日はリョウの大切な日。だから、リョウの邪魔をしちゃいけないんだ。でも、リョウが会っている男の子のことが気になって仕方がなかった。相手が男の子だって判って、あたしはほっとしたけど、でもその子がリョウの一番大切な人なのは間違いなかったから。
 あたしがリョウの一番大切な人じゃなくてもしょうがない。だけど、どうしてあたしじゃなかったのか、やっぱり知りたかったから。
 その男の子を見れば、リョウがどうしてその子を大切にしているのか、判るような気がしたから。
 あたしはマイラに気付かれないように、家の裏側を回って森に近づいた。その森は別に暗くもなかったし、他の場所と比べてぜんぜん違うところなんかなかったのに、あたしはその森が怖かった。でも今はリョウのことを知りたい気持ちの方が強かった。怖かったけど、あたしは我慢して森に入った。