祈りの巫女11
 リョウが向かっていたのは、マイラの家の向こうにある森の中だった。リョウはぜんぜん怖くないみたいだった。だけどあたしは怖くて、しばらく森の入口でうろうろためらっていた。
 どのくらいそうしていたんだろう。そんなあたしの様子に気付いて、マイラが声をかけてきた。
「ユーナじゃない。そんなところで何をしてるの?」
 マイラはいつもよりもずっと悲しそうな顔をしていた。
「リョウがね、森の中に入っていくのが見えたの。大切な約束があるんだって。だからあたしも追いかけてきたの。リョウは森が怖くないのかな」
 マイラはあたしの言葉にしばらく絶句していた。
「……そう、リョウが森へ行ったの。ユーナは森が怖いの?」
 あたしは頷いた。
「ユーナ、こんなところではなんだから、家にお入り。おいしいお茶を入れてあげるわ」
 そうして、あたしはマイラに誘われて、お茶をご馳走になることにした。
 ひと口お茶を含んで見ると、テーブルの上には昨日はなかった花束があった。
「リョウも花束を持ってたの。マイラ、リョウは女の人に会いに行ったんだと思う?」
 マイラもお茶を一口飲んで、悲しそうに微笑んでいた。
「あたしもね、会いに行こうと思ってたところだったんだ。……リョウは覚えているんだねえ。ユーナ、安心するといいよ。リョウが会いに行ったのは男の子だから」
 あたしは安心するよりも不思議に思った。あの森の中でいったい誰に会うんだろう。リョウもマイラも、いったい誰と会おうとしてるんだろう。