祈りの巫女10
 大人になるのが淋しかったから、あたしは儀式を楽しみにしていなければいられなかったのかもしれない。狩人になったリョウがあたしから離れてしまったように、巫女になったあたしはリョウから離れてしまうのかもしれない。もしもあたしが狩人だったら、ランドのようにいつもリョウと一緒にいられた。あたしがリョウと同じ16歳だったら、一緒に大人になれたのかもしれない。
 翌日、北カザムの筆が出来上がって、あたしはピジの工房に取りに行った。小さな筆は毛先がきれいに揃っていて、爪を染めるのに合っていた。さっそく家に戻って爪をきれいに磨く。瓶の中から花びらの汁を絞って、少しずつ、丁寧に塗っていった。
 きれいに塗って、乾かして、また塗る。何回かそれを繰り返してから洗い流す。洗うと少し色は落ちてしまうけど、毎日繰り返し塗っていると洗っても色が落ちなくなる。儀式の日まで毎日塗るつもりだった。一番きれいなユーナになって、巫女になりたかった。
 リョウと話したかった。ううん、ほんとは、リョウが誰と約束しているのか知りたかった。
 リョウが狩りから帰る頃を見計らって、あたしはリョウの家の前まで行った。木の陰に隠れて、リョウが出てくるのを待っていた。しばらく待っていると、リョウが家から出てくるのが見えた。片手に花束を抱えて、片手にお酒の瓶を持っていた。
 リョウに気付かれないように後を追った。花束を持ってるから相手は女の人なのかもしれない。でも、お酒の瓶を持っているから男の人なのかもしれない。もしかしたら、お酒の好きな大人の女の人なのかも。だったらリョウは、その人と結婚したいと思っているのかもしれない。
 リョウは大人だから、誰かと結婚しても仕方がない。あたしと話さなくなったのは、リョウに好きな人ができたからなんだ。
 悲しかった。淋しかった。だけど、そういうことだってあるんだ。あたしがいつか誰かと恋して結婚するみたいに、リョウだって誰かと恋して結婚するんだ。