祈りの巫女9
「送ってくれてありがと」
 リョウに別れを告げて家に入った。食卓にはもう食事の用意がしてあって、父さまと弟のオミが座っていた。たぶんあたしが帰るのを待ってたんだ。
「遅くなってごめんなさい、父さま。リョウに送ってもらったの」
「お帰りユーナ。リョウは帰ったのかい?」
「たぶん酒場に戻った。ランドと飲んでたの」
「巫女の儀式まであと10日か……」
 父さまは食前酒を傾けて、嬉しそうに、でもちょっと淋しそうに言った。
「何も変わらないわ。マイラが言ってたもん。人間はそんなに簡単に大人になんかならないんだ、って」
「そうかもしれないな。だけど、子供はあっという間に大人になるんだ。ユーナもオミも、ちょっと前まではまだ小さな赤ん坊だったんだよ」
「ぼくも赤ちゃんだったの?」
「だれでも赤ちゃんだったんだよ。ユーナもオミも、父さまも母さまもみんなね」
 母さまが食卓について、みんなでお夕飯を食べた後、あたしは花びらの瓶を持って部屋に行った。瓶の中の花びらは色とりどりできれいだった。リョウが取ってきた北カザムの筆が出来上がる頃、花びらからは色の汁がたくさん出てきて、あたしの爪をピンクに染めてくれるだろう。
 あたしがきれいになったら、リョウはあたしとたくさん話してくれるのかな。それとも、巫女になったらあたしは、狩人のリョウとは違う世界の人になっちゃうのかな。
 なんとなく淋しくて、なんとなく悲しくて、あたしは花びらの瓶を見つめながらなかなか眠りにつけなかった。