祈りの巫女8
「ユーナは最初から判ってる。オレには自分が何になればいいのか判らない。だけど、それって本当はどっちでもいいんだ。だってユーナは祈りの巫女になるけど、祈りの巫女になってそのあと何をするかなんて、けっきょく判らないんだから」
 あたしは迷ってた。自分が祈りの巫女になること。リョウはもしかしたらあたしの迷いを知っていたのかもしれない。
「あたし、ちゃんと祈りの巫女になれると思う?」
「神様は乗り越えられない運命を人間に与えたりはしないよ。祈りの巫女の運命を授けたのは、ユーナがそれをやり遂げられるって、神様が思ったからだろ? 神様を信じるのも祈りの巫女の仕事だよ。……さ、うちに入りな」
 本当はもっとリョウと話していたかった。このことだけじゃなくて、もっとたくさんの事。リョウの話をたくさん聞きたかった。狩人になったリョウの狩りの話とか、いつもランドとどんな話をしているのかとか。
 リョウの目には、あたしはいったいどんな風に映っているのかとか。
「また明日話してくれる?」
「儀式前の祈りの巫女ってそんなに暇なのか?」
「暇じゃないけど、もっとリョウと話したいの。前はもっといろいろ話してくれたもん」
「オレもそんなに暇じゃないんだよ。それに、明日はちょっと約束があるんだ」
「だれ? 大切な約束なの?」
「ユーナが知らない人で、オレにとっては一番大切な約束。だいたい春先の狩人は忙しいんだぞ。冬の暇な時を基準に言わないの」
 大人になったリョウはいつも忙しい。あたしは、リョウがあたしを一番にしてくれないことが悲しかった。
 あたしが知らない人との約束を一番大切に思っているのが悲しかった。
「ユーナ、もう家に入りな。まだ夜は寒いよ」
「……うん、判った。おやすみなさい」
「おやすみなさいにはちょっと早いけどな。よい夢を、祈りの巫女」