祈りの巫女6
 リョウはさっきと同じ椅子に座っていて、カウンターの隣の席にはランドも来ていた。
「いらっしゃい、ユーナ。儀式の準備は進んでるかい?」
 最初にマティに声をかけられて、リョウとランドも気付いてあたしを振り返った。まだ早い時刻で酒場には他のお客さんはいない。あたしはすぐにでもリョウに話し掛けたかったけど、声をかけられたから、最初にマティに返事をした。
「衣装の仮縫いが終わったところ。そのことでリョウに話があるの」
「何か飲むかい?」
「ううん、もうすぐお夕飯だからいい。ありがと」
 そうマティとの会話を終わらせて、あたしはカウンターのリョウの隣へ腰掛けた。
「北カザムをピジに納品してくれたの?」
 リョウはまだほとんど酔ってないみたいだった。
「ああ、そうだよ。昨日ピジに頼まれたんだ。それがどうかしたのか?」
「ピジはあたしの筆を作ってくれるの。だからリョウにもお礼を言おうと思って」
 もしかしたらリョウは知らなかったのかもしれない。ピジに納品した北カザムが、あたしの筆になるって事。リョウはあたしの筆のために北カザムを狩ったんじゃないんだ。あたしの早とちりだった。
「そんなことをわざわざ言いにきたのか? 別にいつだってかまわないのに」
 なんだかちょっと悲しくなって、あたしはリョウに返事ができなかった。あたしが黙ってしまったからだろう。横から、ランドが口をはさんだ。
「巫女の儀式は前に見たことがあるけど、あれはちょっと詐欺だと思ったね。どんなヘチャでも絶世の美女に見えちまう。リョウ、儀式の艶姿に騙されて、うかつにユーナにプロポーズするんじゃないぞ」
 まるであたしがすごいヘチャみたいな言い方だった。