祈りの巫女5
 マイラにお礼を言って、あたしはまた坂道を下り始めた。途中、マティの酒場の前を通りかかって、店の中にチラッとリョウの姿が見えた。まだランドは来てないみたいで、リョウはひとりでカウンターに座ってる。声をかければよかったのだけど、あたしはなんだか悔しくて、そのまま素通りして家に戻っていた。
「ただいま、母さま」
「お帰りなさいユーナ。衣装はどうだった?」
「すごくきれいだった。母さま、あたしの花びらは?」
「ずいぶんたくさん取ってきたのね。そこの棚にある1番大きな瓶に移しておいたわよ」
 母さまが指差した瓶には、あたしが取ってきたたくさんの花びらが詰め込んであった。あたしはその瓶を取って、中の花びらに塩を振りかけてしっかりふたを閉めた。
「ありがとう。あのね、あたし、足の爪も染めるの」
「まあ、そうなの。それは大変ね」
「だからたくさん必要なの。時間もすごくかかると思う。でもきれいに染めないといけないんだ」
「それなら筆も必要ね。用意はできてるの?」
「昨日ピジに頼んで……あっ!」
 さっきリョウが狩ってきた北カザムの子供!
 そうだったんだ。あれはきっと、あたしの筆にしてくれるために狩ったんだ。北カザムの毛皮はすごくいい筆になる。中でも子供の毛が最高なんだって、前に聞いたことがあったから。
「母さま、ちょっと出かけてくる!」
「急にどうしたの? すぐにお夕飯よ」
「リョウのところ!」
 母さまはいつも、あたしがリョウのところに行くのを止めたりしなかった。だからそれ以上何も言わないで送り出してくれる。あたしは走ってマティの酒場に行った。