蜘蛛の旋律・139
 野草が事故に遭った瞬間、自我を持った7人のキャラクターは、野草の生い立ちや下位世界と現実世界の仕組み、ほかのキャラクター達のすべての物語を知った。野草が彼らを創った神で、その神が自ら死を選ぼうとしていること。そして神の死は自分の死であることを知った。
 その時の混乱と失望は、シーラが語ってくれた。だけど、その混乱が去った時彼らが思ったのは、なんとしても生き延びたい、ということだったのだろう。彼らは自分達が生き延びる手段を求めて、まずは野草の病室に現われた。そして、そこにいた現実世界の人間、巳神信市と会うことになった。
 シーラはオレを黒澤弥生のところに連れて行き、オレが野草の自殺願望を覆すために召喚されたのだと知る。だけど、本当は誰も、オレが野草を救えるなんて信じていなかったんじゃないだろうか。黒澤弥生にしても、ほかのキャラクターにしても。シーラは最初は信じたのかもしれないけど、しばらくオレと行動してみて、オレにその力がないことを見抜いたんじゃないだろうか。
 だって、彼らは知っていたのだ。野草が『蜘蛛の旋律』を書いていたことを。『蜘蛛の旋律』の中では人類は、僅か一握りの人数を残してすべて死滅する。それは百年後の出来事じゃない。数年か数十年後に確実にそのときは訪れ、彼らだって無事に済むはずがなかったのだ。当然野草はなまじな説得には応じないだろうし、万が一応じたところで、数年後にはすべて水泡に帰す。野草の説得というのは、最初から無意味なことだったのだ。
 では、黒澤弥生はなぜ、オレを召喚したのか。少なくとも二度目に会ったシーラとアフルはその理由を悟っていたような気がする。このときアフルは葛城達也と接触していた。シーラも、葛城達也に操られたタケシと一緒にいた。このあたりは推測でしかないけれど、もしかしたら2人は葛城達也にその理由を聞いたのかもしれない。
 黒澤弥生が、役に立たないオレをわざわざ召喚したのはなぜなのか。どうして、召喚されたのがオレだったのか。
 生き延びるために、彼らは野草を見捨てて、新しい神を見つけようとしたのではないだろうか。