蜘蛛の旋律・125
「薫、こんな奴の言葉なんか真に受けるなよ。こいつは偽善者だ。お前と戦う資格もねえクズ男だぞ」
「本当にそうかどうか野草が自分で確かめればいいじゃないか。オレが偽善者なら勝負はお前の勝ちだ。確かめもしないで試合放棄するつもりか?」
「薫のことを本当に判ってやれるのは俺だけだ。俺は薫と一緒に死んでやることができるんだぜ。巳神信市、てめえは薫のために死ねるのかよ」
「オレは野草と一緒に生きることができるんだ。お前は死ぬことしかできないじゃないか。野草のために生きることもできねえで、何が判ってやれるだ。偽善者はいったいどっちだよ!」
 口げんかなら葛城達也にだって負けない自信はある。言葉に詰まった葛城達也は、いきなりオレたちに衝撃波を浴びせてきたんだ。その部屋にいたキャラクターは、全員オレと一緒に後方に吹き飛ばされた。オレの身体はテーブルさえなぎ倒して、資料がおさまった本棚に打ち付けられたのだ。
 一瞬、目から火花が散って、ちょっと高い位置から落ちるような感覚があった。痛みを振り払うように周囲を見ると、オレは棚の前に座り込んでいて、同じ棚の地上1メートルくらいのところに誰かの足が見えた。オレが最初に見た足はシーラのもので、シーラの身体は棚に打ち付けられたままの状態で貼り付いていたのだ。少し廊下寄りにタケシと巫女が貼り付いていて、ドアの位置にアフルが、ドアから少しずれた壁のところには、あの片桐信までもが貼り付けになっていたのである。
「きさま……葛城達也! てめえは仲間にまで……!」
 全員吊り下げられたまま声もなくもがいている。そうとう苦しいはずだ。早く解放してやらなければ。
「放っておけよ。どうせ全員すぐに死ぬんだ。虚無は隣の教室まで破壊したところだからな。もうじきここにもくるぜ」
「……なんだって!」
「時間切れのゲームオーバー。俺の勝ちだ」
 時間がない。このままでは奴の言う通り、野草を救うことはできないだろう。