蜘蛛の旋律・110
 アフルと武士は、いったい何人のキャラクターを殺したのだろう。そしてオレは、いったい何人のキャラクターの死を見、その名前を呼んだのだろう。
 3階の渡り廊下は、今は襲い掛かるキャラクターのすべてが消えて、一瞬の静寂に包まれていた。オレたちの正面には、野草と葛城達也が潜んでいるはずの地理準備室がある。そしてそのドアの前に立つのは片桐信。オレにそっくにな、オレをモデルに作られたキャラクターだった。
 もしも片桐が襲ってきたならば、武士とアフルとが2人がかりで片桐を阻止して、オレも含めた4人のうちの誰かは命を落としたかもしれない。だけど片桐が襲ってくることはなく、武士とアフルもこちらから襲い掛かることはしなかった。
 もはや、野草のキャラクターの中で残っているのは、武士とアフル、シーラと巫女、それに、片桐信と葛城達也だけだった。
 今、片桐はまっすぐな視線に憎悪を込めて、オレを見つめていた。
「……どうして、オレを憎むんだ?」
 初めて野草の病室で会ったときから、オレはずっと気になっていた。恐怖もあったのだけど、今はアフルと武士が守ってくれてもいたから、オレは片桐にそう訊くことができた。自分で見てもよく似ていると思う。ドッペルゲンガーに出会った人間というのは、みんなオレと同じような恐怖を感じたのだろう。
 自分と同じ容姿の人間に憎まれるというのは、それでなくても気持ちのいいものではなかった。
「お前が薫に声をかけたからだ。……どうして、薫に声をかけたんだ」
 オレは片桐の言葉の意味が判らなかった。……奴はいつのことを言ってるんだ? オレは野草とはクラスも違ったし、部活の時以外偶然会うようなこともあまりなかった。移動教室ですれ違えば挨拶くらいはしたけど、片桐が憎しみを持つような変なタイミングで声をかけるようなことはなかったはずだ。