蜘蛛の旋律・108
 武士もアフルも、まるで殺人マシーンのように、次々と襲い掛かるキャラクター達を殺してゆく。アフルの小説のオープニングに現われた5人の子供達は皆ナイフを持っていた。教師のロウ、ミオの部下のバート、友人の麻月直子や白井佑紀、敵の組織の河端倫理。オレの姿を見つけたキャラクターは次々と廊下の向こうから駆け寄ってくる。武士の弟の礼士、礼士の友達の智之、仁、義彦、信吾 ――
 背後にテレポートしてくるキャラを、巫女とシーラが倒していく。一撃で殺す力は彼女達にはないけれど、巫女は地這い拳で操り糸を切り、シーラは体術で重症を負わせていった。九段一族の白髪の長九段、地這い一族の税理士相馬、医師の岡安、長老高階、そして多くの地這い一族の者たち。
 武士の拳の威力は衰えず、勢いはとどまらなかった。葛城達也は手に余るほど多くのキャラクターをテレポートさせてくることはなかった。まるでオレたちを弄って楽しんでいるかのようだ。あるいは本当にそうだったのかもしれない。
 いったい、何がどうなっているというのだろう。オレはなぜここにいるんだ? 奇妙な違和感がオレにへばりついてはなれない。野草のキャラクターが次々と殺されていく様を、オレはただ黙って見ているだけだったのだ。
 やがて、2階にいたキャラクターは、すべて武士とアフルの手にかかり、塵になって消滅していった。同時に、テレポートしてくるキャラクターもいなくなる。戦いつづけた戦士達は呼吸を始め、僅かな休息を許されたのだ。
「巳神、少し休んだら3階へ行く」
 乱れた呼吸を整えながら、武士が言った。3階には野草がいるんだ。オレはまだ野草に伝える言葉を見つけられずにいるというのに。
「巳神君、みんなも、こっちへ来て」
 いつの間にかアフルが職員室の入口にいて、手招きをしていた。オレたちはアフルについて職員室に入り、教師達の事務机をかき分けて窓の外を覗いてみる。
 アフルの自宅から見た虚無。その空の破れ目はほとんど空全体を覆い尽くして、地上の虚無はもう、この高校の名前の由来になったあの沼の近くまでも迫っていたのだ。