蜘蛛の旋律・107
 階段下に突然現われた人影は、オレの姿を見ると、とたんに階段を駆け上がってきた。さっきまでは確かにいなかった。その出現の仕方は、まるでテレポートしてきたような感じだった。
「シノブ!」
 シーラが叫んで、あわててオレの前に回りこむ。現われたのはシーラの物語に出てくるシノブという名前の男だ。細身で身長も高くなく、メガネをかけた優しそうな青年。シーラに淡い恋心を抱いていたその青年は、今はゾッとするような表情でシーラに向かってくる。
 近づいてくるシノブを待ち受けて、シーラは階段から蹴落とした。シノブはその10数段を転がり落ちてゆく。下まで落ち込んで動かなくなった。
 様子を察したアフルが戻ってきて、落ちたシノブを見て状況を理解したようだった。
「シーラ、怪我は?」
「……大丈夫」
「葛城達也が送り込んできたな。シーラ、後方の守りは頼むよ」
「判ってる。ぜったい巳神には触れさせないから」
「巳神君、2階まで上がってきて」
 なんだかゆっくり考えをまとめる暇もなくて、アフルのあとから階段を上がると、2階の渡り廊下には4人のキャラクターがいた。オレを見て、ほぼ同時に動き出す。一番近くにいたのはたぶんリュウだ。シノブと同じスパイチームのリーダー。待ち構えていた武士が拳を使ってリュウを倒していた。
 リュウはうめいて倒れ、姿を消す。武士が拳を使ったのを見るのは初めてだった。地這い拳では人を殺すことができないからだろう。次にタケシの拳の餌食になったのはリュウの仲間のナナ。武士は相手が女の子でもまったく容赦はしなかった。
 武士と同時に、アフルは2人の超能力者、金髪のユーカリストとすらりとした美少女レギーナの命を奪っていた。どちらもアフルと同じ組織の仲間だった。
 武士に手招きされて渡り廊下に出ると、視界が開けて更に7、8人のキャラクターがオレの前に姿を現わしていた。