蜘蛛の旋律・103
 沼南高校の2つ並んだ校舎は上空から見ると、ローマ字のHを縦に長くして、横棒をもう1本追加したような形をしている。2本の横棒のところに階段があって、校舎のどこからでも割に最短距離で移動できるんだ。それは学生生活を送る分にはすごく便利な構造なのだけれど、敵しか存在しない校舎内に少人数で攻め込むには、すごく厄介な構造だった。
 敵はどこからでもやってくることができる。オレたちを挟み撃ちにしようと思ったら簡単なんだ。そして、いったん多人数に囲まれてしまうと、オレという弱点を抱えるオレたちはほとんど終わりなんだ。これが将棋なら、オレたちは金銀飛車角のみのハンデ戦で、他ぜんぶの駒が配置された敵の陣に攻め込もうとしているようなものだった。
 オレと4人のキャラは、その2つの校舎のうち人の気配が多い校舎の様子を探るために、校庭の方に回ってみた。武士とアフルの意見は一致していて、一番人口密度が多いのは3階の地理準備室付近で、4、5階と1階にはほとんど気配はない。様子を見ながらまずは1階から侵入するのが最適だろうというのが2人の意見だった。
 そのまま校庭を周り、Hの文字の右肩付近までくる。3階の地理室はちょうどこの右肩の飛び出した部分で、そのすぐ下の横棒が交差するあたりが準備室だ。地理室の位置は1階では保健室の部分になる。武士が侵入場所に選んだのが、この保健室脇の非常口だったのだ。
 もしも最短距離を取ることができれば、地理準備室までは階段を2つ上がるだけだ。アフルは非常口のドアに近づいて、鍵の部分を見つめる。それだけでは結界が邪魔して鍵をあけることができなかったのか、一度手を触れるようにすると、やがてカチッと音がして鍵が開いたことが判った。
 まるで声を聞かれるのを恐れるかのように、戦士達に言葉はなかった。アフルが頷いて開いたドアを、まずは武士がくぐってゆく。そのあとアフルが、巫女が、シーラが入る。オレは中の様子を窺って、非常灯のみの薄暗い校舎の中にとりあえず誰もいないことだけを確認して、中に入り、ドアを閉めた。