蜘蛛の旋律・102
 武士の言うことが本当なら、オレは校舎の中にいる操られたキャラクター全員の標的になっていることになる。オレが校舎に入ったとたん、中にいる全員がオレをめがけて殺到してくる。……考えただけでもゾッとする状況だ。オレにはケンカの経験はなかったし、たった1人の老人にだってあわや殺されそうになったのだから、老人よりも遥かにケンカ慣れしたキャラクター達にならあっという間に殺されるだろう。
「……オレが中に入らない、ってのは無理なんだよな」
「当然だ。お前が薫に会わなければ意味がねえ」
 このとき口をはさんだのはシーラだった。
「全員で巳神を守るしかないでしょ? 巳神のことはあたしが守る。ここまで来て怖気づいてないでよ」
 ……そうだ、オレは今までシーラや武士に守られっぱなしだったんだ。ここでオレが奮起しなければ、この小説のオレの立場って、ものすごく情けないものになるんじゃないのか? オレは小説のハッピーエンドのために召喚された勇者なんだ。何もしない傍観者のままで終わる訳にはいかないだろ。
 そんなオレの決心を読んでか、アフルが言った。
「まあ、けっきょくは巳神君をおとりにして、僕と武士が1人ずつ人数を減らしていくしかないだろうね。僕達が倒せなかったキャラは、申し訳ないけど巫女とシーラに何とかしてもらう」
「申し訳ないなんて言う必要はないよ。私も地這い拳は習得してるからね」
「あたしだって体術くらい習ってるよ。スターシップをあんまり見くびらないで」
 巫女とシーラの答えに、武士がまとめるように言った。
「決まりだな。俺とアフルが先発で道を作る。そのあとをシーラと未子が巳神を守りながらついてくる。俺たちが取りこぼした奴は2人で何とかしてくれ。巳神、お前は2人から離れるなよ」
 ……けっきょく、勇者のオレは一番勇者らしくない立場に甘んじるしかないようだった。