蜘蛛の旋律・97
 オレと巫女、タケシとアフルの4人が車から降りると、少し緊張した面持ちでシーラがオレたちに近づいてきた。オレたちの到着を待ちながら、中の様子を窺っていたのかもしれない。その表情に笑顔はなかったけれど、やっぱりシーラは綺麗で、振り返った瞬間オレの胸は高鳴った。
「どんな様子だ」
「すごく静か。まるで誰もいないみたい」
 武士の問いかけにシーラが答えたあと、武士は様子を見ながら校門近くまで歩いていった。門のところにはまだタケシのレガシィB4がさっきと同じ形で潰れている。オレたちも近づいて、判らないなりに中の様子を見定めようと目を凝らした。
「少し移動したな。手前の校舎にはあんまり気配がねえ」
「そうだね、奥の校舎の方にいるみたいだ。3階の付近に気配が集中してる」
「アフル、お前も判るのか?」
「一応僕も超能力者のはしくれだからね。でも、校舎の中は今は葛城達也の結界が張られてるから、僕の力では突破するのは無理みたいだ。全員でテレポート、っていうのが理想的だったんだけどね。地道に歩いて近づくしかないらしいね」
 武士とアフルが交わしている会話の内容を、オレはまったく実感することはできなかった。だって、本当に校舎は静かなんだ。それとも、葛城達也が張っている結界が、オレに気配を感じさせていないのか。
「巳神君、超能力者の結界は、そうでない人の五感には影響ないよ。僕はちょっと乱されてるけどね。その証拠に、武士はちゃんと気配を感じてるだろ?」
 オレの心を読んでアフルが言った。……悪かったな。オレはどうせ鈍いよ。だけどよりによってシーラの前でそんなこと言うことないじゃないか!
 そんなオレの悪態も読んだのだろう。アフルは少し苦笑いを浮かべてまた校舎を振り返った。
 その時だった。
 手前の校舎、受付に続く2階の扉から1人の男が現われて、外階段をゆっくりと降りてきたのだ。