蜘蛛の旋律・89
 パルサーの隣にバイクを止めて、シーラを伴ってアフルの部屋への階段を上がると、ベッドの上にはタケシが横たえられていた。巫女はだいぶ回復したらしく、ベッドの脇に腰掛けている。その隣に武士がいて、タケシの頭にあたるところにアフルが座っていた。
 3人はオレたちの到着を待っていたようだった。
「シーラ、初めまして」
 そう、最初に言ったのはアフルだった。シーラは一言「こんにちわ」と挨拶をしたけれど、それだけで、すぐにタケシの傍らに近づいていった。それが、なぜかアフルを無視しているような気がして、オレは少し引っかかるものを感じていた。
「巫女、タケシの様子はどう?」
 シーラの態度は少しこの場を緊張させているようだった。そんな空気を察したのだろう。巫女は苦笑いを浮かべて、シーラの問いに答えていた。
「普通に眠っているのと変わらないね。操り糸が切れているから、シーラが飲ませた睡眠薬が効いている状態なんだと思う」
「だったら、このままベッドに縛り付けておけば、あと数時間くらい持たせられるかな」
 オレはシーラの言葉に正直驚いていた。さっき、オレはシーラに告げたんだ。タケシの記憶を戻せば、もしかしたら自我を持つことができるかもしれないって。
 ここには精神感応者のアフルがいる。アフルにならタケシの記憶を戻すことができるかもしれないじゃないか。
 そんな、オレの心を読んだのだろう。口をはさんだのはアフルだった。
「シーラ、もしかして、僕のことが信用できない?」
 このときシーラはアフルを振り返ったから、オレはシーラの表情をはっきり見ることができていた。驚いた。シーラはまるで怒ったような顔でアフルを睨みつけていたから。
「敵だとか味方だとか、そんな小さなことにこだわってる訳ないでしょう! 薫が生きるか死ぬかしかないんだよ! あたし達全員、運命共同体なんだから」
 シーラはそう言ったけれど、オレには彼女の言葉はまったく逆の意味に聞こえた。