蜘蛛の旋律・84
 何かが引っかかった。
 シーラはおそらく、その理由を知っている。だけど、何かをためらうようにしばらく沈黙したまま、オレに微笑んでいた。……思い出した。オレはアフルに一度ごまかされたことがあるんだ。野草が1ヶ月間この世に残していた未練、その話をしようとしたとき、アフルは話題を変えたんだ。
 今のシーラには同じ雰囲気がある。シーラもまた、何かをごまかそうとしているのか。
 そんなオレの不信感を拭い去るように、シーラは悲しみの混じった微笑みを浮かべながら話し始めたのだ。
「自我を持ったキャラクターには、みんな共通点があるの。巳神は気付かなかった?」
 共通点? 野草が感情移入していたという以外に、このメンバーに共通点なんかあるのか?
 シーラも武士も巫女もアフルも葛城達也も、片桐信のことはよく知らないけど、作者の黒澤弥生だって、ぜんぜん共通するものなんかないじゃないか。
 一番近いのは武士とタケシだ。だけどタケシは自我を持たなかった。外見や能力や性格以外に、自我を持った7人に共通するものがあるのか?
「巳神は薫の全部の物語を知ってる訳じゃないから判らないかな。……信はね、片桐信は、生涯に2回の恋をするの。1人は不良仲間のヒロって女の子で、もう1人は従妹の聖。でも、その2人にはちゃんと運命の相手がいて、信は聖を想い続けながら一生独身で通すの。葛城達也は、死んでしまったミオと実の妹を愛している。アフルが好きだったのも死んだミオ。武士は姉の巫女を愛しているし、巫女も武士を愛してる。……そして、あたしは、巳神が知らない物語で、実の兄に恋をするの」
 ……そうだった。野草の物語には、登場人物が兄弟に恋をする設定が多く使われていたんだ。
「つまりね、自我を持った薫のキャラクターはみんな、永遠に実らない恋をしていたの。絶対叶うことのない恋を」