蜘蛛の旋律・82
 オレとシーラは学校の前に取り残されてしまっていた。校門のところにはタケシのレガシィB4が煙を上げて潰れている。オレはここまで黒澤の車で来たんだ。武士が乗っていってしまった以上、オレに足はない。
 そうだ、シーラはここまでどうやってタケシを追ってきたんだろう。そう思って振り返ると、シーラは倒れたバイクを引き起こして調子を見ているところだったのだ。
 白のCB400。……これに乗ってきたらしいな。シーラはこんなものまで動かすことができるのか。
 どうやら武士は、シーラがバイクに乗ってきたことを知っていて、オレを置き去りにしてくれたらしかった。
「壊れたのか?」
 必死でタケシを追いかけてきたシーラ。バイクは無造作に放り出したのだろう。だけど、シーラがエンジンをかけると、CBは力強く応えてくれた。
「大丈夫みたい。何とか動いてくれそう」
「2人乗りできる?」
「できるかな。あたし、バイク乗ったのって、今日が初めてなんだよね。自転車なら乗れるんだけど」
 オレは驚いてシーラを見つめた。……確かに、シーラは運動神経がいい設定だから、少し練習すればバイクだって乗れるかもしれない。だけど、初めてバイクに乗って、ここまでタケシの運転するレガシィB4に引き離されずに追いかけてきたっていうのか?
 本当にシーラは必死だったんだ。タケシを奪われたくなくて、自分の命すら顧みないで。
 シーラの恋は切なくて、オレは胸が痛くなった。その痛みの半分はタケシに対する嫉妬だったのかもしれない。
「アフルの家までは歩いて行ける距離じゃないからな。どうするか」
「いいよ、やってみる。1人でも何とか乗れたんだもん、2人でも何とかなるよ」
 シーラは言って、オレに向かってウィンクして見せた。