蜘蛛の旋律・75
 行動の主導権は、いまや完全に武士に握られていた。武士は地這い一族の仮長で、400人以上いる一族を束ねていたりするから、人を従わせることに慣れてもいるのだろう。そんな武士の言動には逆らいがたいものがある。物語の中ではあまりそのリーダーシップを発揮するシーンはなかったけれど、ことが起これば自然に指揮をとってしまう体質というのが、この武士には備わっているみたいだった。
 アフルの自宅前に路上駐車してある黒澤のパルサーに近づいて、武士は自然に運転席に回っていた。オレはまたしても助手席のドアを開けて、それまで黙っていた武士に訪ねた。
「確かめたいことって?」
「未子は薫が潜入するだろう場所をいくつかピックアップしていた。様子を確かめてみるつもりだ」
「運転できるのか?」
「俺は免許を持ってる」
 なるほど、武士は無免許のオレやアフルよりは遥かに信頼できるドライバーらしい。
「で、どこへ向かうつもりなんだ?」
 エンジンをかけてアクセルを踏んだ武士は、反転して来た道を戻って、次の信号を南に曲がった。この道は、オレとアフルとがさっき辿った道だ。しばらく走るとアフルと再会した新都市交通の駅付近の道路に繋がっていく。
「一番確率が高い場所へ行ってみる。薫が通う高校だ。巳神、道案内を頼む」
 アフルと会う前に、オレが向かおうとしていた、オレたちが通う高校。
 やっぱりあの高校は、野草にとってかなり重要な場所なんだ。1日の多くの時間を野草は学校で過ごしていたし、アフルや葛城達也が出てくる物語ではその舞台にもなった。主人公の少女が自殺したのもあの学校だった。野草が死に場所を選ぶとしたら、やっぱり一番確率が高いのはあの高校なんだ。
 オレと野草が通う高校。沼の北側に位置することから名づけられたその名前は、沼北(しょうほく)高校という。