蜘蛛の旋律・65
 葛城達也は、爆発事故のあの瞬間、子供の姿で自我を持った。それは、野草の中では子供時代の葛城達也が一番印象深かったからだ。野草の下位世界を上位世界の時間に当てはめると、アフルが出てくる小説が一番現代に近い。現代の時間では、葛城達也は27歳で、シーラは15歳だということになる。
 オレは、それまで一番気になっていたことを、アフルに訊いてみた。
「アフル、あんたはどうして葛城達也を追ってたりしたんだ?」
 アフルに関しては、謎はそれだけじゃないんだ。野草の病室に最初に現われた時口にした「僕が悪かったのかな」という言葉の意味も。
「あのさ、巳神君。まさか君は信じてないよね。火の気のまったくない普通の古本屋がいきなり爆発を起こしたのが、単なる過失か偶然だ、なんてことは」
 ……確かにそうだ。レストランやガソリンスタンドや、いわゆる火の気の多い場所で過失で爆発が起こることはあるかもしれない。だけど、古本屋がそう簡単に爆発するなんて、誰かが意図的にやったとしか思えないじゃないか。
 自分の下位世界が現実世界に影響を与えたと知って、野草は自殺願望を持った。すでに実体化していた野草のキャラクターがその願いをかなえようとしたところで不思議はない。現在に実在していた葛城達也は27歳で城河財閥の総裁だ。本屋に爆発物を仕掛けるよう手を回すことくらい、簡単にできはしないか?
「本屋を爆発させたのは、葛城達也だったのか?」
「僕はそう思ったんだ。だから葛城達也を探して、11歳の姿で実体化していた彼を見つけた。たぶん彼自身は自分が子供に戻ってしまうなんて思っていなかったんだろうね。必死で僕の追跡から逃げ回って、とうとう自分を成長させる術を見つけてしまった。僕の力では14歳の葛城達也にも勝つことができなかったんだよ」
 どうやら、この葛城達也という人物が、この世界の様々な鍵を握っていることは確かなようだった。