蜘蛛の旋律・62
 アフルはオレの心を読んでいて、どうやらオレが今まで体験したシーラや黒澤弥生との会話も、片桐信や古本屋の老人との経緯なんかも、ぜんぶ承知しているようだった。だけどオレの方はもちろんそうはいかなかった。アフルが言った場所まではかなり距離もあったから、オレはその時間を利用して、気になることをアフルに訊いてみることにした。
「さっき、どうして道路で倒れてたりしたんだ?」
 思い出してみると、オレがアフルを見つけたとき、アフルは既にあそこで倒れていたんだ。
「ちょっとね、子供だと思って一瞬油断したんだ。そうしたらいきなり成長して、それに伴って力も上がった。思い切り衝撃波を喰らっちゃったよ。それで、落ちたところがあの場所だったらしい」
 どうも、野草のキャラクターというのは、総じて説明が下手な傾向にあるらしい。今思えば、黒澤はかなり判りやすい説明をしてくれたんだ。シーラもアフルも、相手がどの程度理解しているのか、そのあたりを見誤っている気がする。
「もっと最初から噛み砕いて判りやすく話してくれないか?」
 オレが言うと、アフルは苦笑いのような表情を見せた。
「ええっと、巳神君の最初はどこだろう。……ここが薫の下位世界なのは知ってる。僕が薫が書いた小説のキャラクターだって事も判ってる。そのキャラクターの中で、誰が自我を持ったのかも知ってるね。ああ、そうか。判らないのは僕が追いかけていた人間がその中の誰だったのか、ってことか」
 まどろっこしい男だな。超能力者ならもっと、スパッと理解してくれてもいいじゃないか。
「あのね、巳神君。僕は接触感応が専門で、相手に触れていないときの感応力はそれほど強くないんだ。表層心理くらいなら何とか読めるんだけどね」
「何でもいいから教えてくれよ。あんたが追いかけてた子供、あれはいったい誰だったんだよ」
 もしかしたら、オレはアフルにからかわれていたのかもしれない。
「葛城達也。城河財閥の総裁にして、僕が所属する組織の総元締め。そして、薫が一番愛情を注いで作り上げたキャラクターだよ」
 オレはそのアフルの言葉を即座に信じることができなかった。