蜘蛛の旋律・52
「それじゃ、あたしこれで行くから」
 そう、シーラが言ってくるりと背を向けて歩き始めたから、オレは驚いてシーラの前に立ちはだかった。
「ち、ちょっと待ってくれ。どうしていきなり」
 言ってしまってから気付いた。今のオレはあまりに情けない姿をシーラに見せてしまったから、呆れられたとしてもしょうがないんだ。こんな奴といっしょに行動しても、先行きの展望は見えないだろうから。
 だけど、シーラがそう言った理由はそれだけではないようだった。
「タケシが心配なの。……巳神は、あのお爺さんが誰かに操られてるように見えなかった? あたしはタケシを眠らせてきた。眠ってる身体の方が操りやすいってことだってあるでしょう? とにかくタケシの様子を確かめたいの」
 そう言ってまたシーラはオレを追い越していこうとしたから、オレも再びシーラの前に回り込む。本音は、シーラとこれからもずっと一緒にいたかったんだ。だけどそうとは言わずに必死になって言い訳を考えていた。
「たとえタケシが操られてたとして、シーラ、君にどうにかできるのか? それより野草を捜す方が先だろ。野草の自殺願望がなくならない限り、この世界は明日の5時20分に消滅しちまうんだ。タケシだって助けられないじゃないか」
 オレの言っていることは真実で、理にかなっていた。たぶんシーラも判ってくれる。だけど……シーラはちょっと諦めたような笑いを見せて、立ちはだかったオレに近づいて、頬に触れてきたんだ。間近になってしまったシーラの表情にドキドキした。その綺麗な瞳には、見ていて切なくなるような表情が浮かんでいたから。