蜘蛛の旋律・34
 野草の下位世界が、現実の新都市交通をモノレールに変えてしまった。
 もちろん信じられる訳がない。だけど、オレは見てしまったのだ。いつから変わっていたのか、それは判らないけど、いつの間にか新都市交通はモノレールに姿を変えて、しかもそれをオレたち他の人間に気付かせなかった。
 下位世界が与える影響は、他の人間の記憶までも操作してしまうようなものなのか?
 もしかしたら他にもあるのかもしれない。野草の下位世界が変えてしまった風景が。……だとしたら、オレは自分の記憶すら疑わなければならないんだ。
 オレが今まで信じてきた現実は、こんなにも信用できないものだったのか……?
「巳神」
 その時、運転席から心配そうに声をかけてきたのはシーラだった。
「……ああ……うん、大丈夫だシーラ。……ちょっとしたカルチャーショック受けただけだから」
 そうだ。この世の中に不変でいられるものなんてありえない。人間の記憶もそうだ。歴史的事実が固定したまま変化しないと考える方が不自然なんだ。未来が変化する以上、過去だって変化しない訳がない。そんな題材を扱った小説をオレは山ほど読んでるんだ。
「どうやら大まかなところは理解してもらえたみたいだね」
 黒澤が助手席から振り返って、今度こそはっきりオレの目を見て言った。やっと、オレの中で噛み合うものが生まれてくる。なぜ、オレが野草の下位世界に迷い込まなければならなかったのか。なんでオレが黒澤にこんな話を聞かされたのか。
「判ったよ、黒澤。オレがどうしてここにいるのか。……オレは、あんたに呼ばれたんだ」
 黒澤は、オレの言葉ににやりと笑った。