蜘蛛の旋律・31
「正確に言えば上位世界からの影響もあるんだけど、とりあえずそれは置いておこう。まあ、今までの話を簡単に言うと、要するに、人間ていうのは精神の生き物なの。精神が肉体に影響を与えて、風景を変えて、世界を作ってる。極端な話、上位世界はさまざまな人間の下位世界を集めてできてると言っても過言じゃない訳」
 確かに言ってることは間違ってない。風景も世界も人間が作ったもので、「それを作ろう!」って意欲は、精神世界から端を発してる。だからまあ、人間の精神が世界を作ったと言い換えてもいい訳だ。間違いはないんだ。だけど ――
 オレはどうも、この黒澤という小説書きに、反発を覚えてならないんだ。断定的な物言い。強引な理論の展開。人の目を見てしゃべらない自己中心性。人を見下して、自分の頭のよさを披瀝しているような物腰が鼻をついて、すごく嫌な気分にさせられる。野草も人と視線を合わせないけれど、一緒にいてこれほど嫌な気分にはならないもんな。オレが読んだいくつかの小説をこいつが書いているのかと思うと、それだけで気分が萎えてくる気がする。
「ここまでの話、理解できた?」
 黒澤が訊いてくる。まあ、とりあえず話は理解できた。
「ああ」
「ところでさ、巳神は好きな女の子とか、いる?」
 突然話題が変わって、オレは呆然としてしまった。そんなこと、今の話に関係あるのか!
「……いないけど? それがなんなんだよ」
「若いくせにずいぶん潤いのない人生だね」
 余計なお世話だ!
 オレはだんだん、この世界のことも、野草のことも、どうでもいいような気分になってきていた。