蜘蛛の旋律・27
「……なんで! どうして弥生が薫を助けられないの!」
 シーラがなぜそう言ったのかも判らないけど、オレはどちらかというと黒澤が野草の死亡時刻をはっきり予言したことの方に驚かされていた。なんでこいつにそんなことが判るんだ? そういえば、アフルも野草が死ぬことを予言していたけれど。
「しょうがないよ。だって、薫が自分で死にたがってるんだから。この世界では誰も薫には勝てないんだ。……たとえ作者のあたしでもさ」
 野草が、自分で死にたがっている? ……確かに、野草にはあまり友達もいなかったし、生きていることをそれほど楽しんでいるようにも見えなかったけど、でも、死にたいと思うほどの悩みがあるようにも見えなかったぞ。……って、オレはそんなに野草のことを知ってた訳じゃないけど。
 意外だったのは、シーラは黒澤の言葉を聞いて、明らかに心当たりがあるように見えたことだ。シーラには判っているのか? 野草がどうして死にたいと思っているのか。
「……あたしは、薫に死んで欲しくなんかないよ。弥生だってそうでしょ? みんな、この世界にいるみんな、薫に死んで欲しくなんかないでしょ?」
「そりゃあね、薫が死んだら、当然この世界もなくなる訳だし、そうなったらあたしも死ぬしかないし」
 ここは野草の夢の中。シーラはそう言っていた。……そうか、ここは野草の夢の中で、この2人は野草の夢の住人。だから、野草が死んだら自分も死ぬ。黒澤はそう言っているんだ。
 だけど……どうしてなんだ? どうして野草の夢がここにあって、夢の住人がいて、その夢の中にオレが迷い込んだりなんかしてるんだ?
 夢なら夢らしく野草の心の中だけに存在していればいいじゃないか!
「ねえ、シーラ。ちょっと時間を割いて巳神に説明してやった方がいいんじゃない?」
 突然話題がこっちに振られたから、オレは少し身構えてしまった。
「……弥生、もしかして、巳神がここにいる理由も知ってるの?」
「知らなかったらこの話は書けないでしょ。あたしがこの小説の作者な訳だし」
 オレには2人の会話の意味は、さっぱり判らなかった。