蜘蛛の旋律・25
「……どうして、モノレールが新都市交通になってるんだ……?」
 違う、逆だ。これは最初は新都市交通だったんだ。だけどいつの間にかモノレールに変わっていて、なのにオレは今日まで変わっていたことに気付かなかったんだ。
「これが薫の夢の中だって、信じたね。すぐに引き返して今度は黒澤弥生に会わなきゃ」
「待ってくれ! どうして新都市交通がモノレールになってるのか、説明してくれよ。君の言うことが本当なら逆なんだ。あれは昔は新都市交通だった。それが夢の世界で、なんで現実の世界がモノレールになってるんだよ」
 車をターンさせながら、シーラは面倒そうにため息をついた。
「ねえ、巳神って、子供の頃よく大人に『どちて坊や』って言われなかった?」
 ……なんで知ってるんだろう。オレにも意味が判らなかったのに。
「つまりね、新都市交通じゃ通りがよくなかったんだよ。モノレールの方がみんな知ってて、判りやすいでしょ? だから薫は新都市交通をモノレールにしたの。……もういい? とりあえず黒澤弥生に会うのを先にさせて」
 疑問は山積みだったのだけど、そもそもオレはシーラにくっついてきている身分でもあるし、オレのせいでシーラの時間を無駄にしたのも事実だったから、これ以上の質問を差し控えることにした。とにかくオレの周りで何かおかしなことが起こっているのは事実なのだ。当然オレにも関係があるし、おそらく野草が深く関わっている。
 黒澤弥生。野草のペンネームを持つ人間が実在するなら、オレの周りで起こっていることを説明することができるのではないだろうか。もしかしたら、シーラが期待するように、野草の命を救うこともできるのかもしれない。
「そこのアパートだよ。あの1階に母親と一緒に住んでるはずなんだ」
 そう言って、シーラは車を降りた。