蜘蛛の旋律・21
「行くって、どこへ?」
 シーラは既に立ち上がっていて、半歩足を踏み出してもいた。気が急いているのだろう。それでもアフルとは違って、オレの返事を待つだけの余裕は見せていた。
「あたしは薫を助けたい。だから、その方法を探しに行くの」
「だから、どこへ行くんだ?」
「そんなの判んないよ! でもここにいたら薫は間違いなく死んじゃうもん!」
 そう言い捨てるようにして、シーラは病室を出て行った。今度はオレも呆然と見送るようなことはしなかった。後を追って廊下を足早に歩くシーラについて階段を下りた。
「オレも行く。一緒に連れてってくれ」
「薫を助けたい?」
 彼女の声色は、違うと言えば即座に平手が飛んできかねないようなものだった。
「ああ、助けたいよ。野草は同じ文芸部の仲間だ」
「判った。巳神も協力して」
 それからのシーラはもう気軽に話し掛けられるような雰囲気ではなくて、オレは黙ったまま、シーラのあとについて歩き続けていった。シーラは廊下を抜け、地下の駐車場に入った。並んでいる車の中からひとつを選び出して、手馴れた仕草でキーのロックを解き、オレを助手席に招き入れる。白のレガシィB4。小説の中でシーラのパートナーが乗っている車だった。
 エンジンをかけると、ようやく人心地ついたのか、シーラの表情が緩んでいた。
「シーラ、ちょっと訊くけど……」
「タケシのこと?」
 オレの質問を先回りするように、シーラは言った。