蜘蛛の旋律・8
「嬢ちゃんが高校に上がったころ集めた本じゃ。あのころの嬢ちゃんは神の存在に興味を持っててな。ここにあるような本を読みたがった。これはギリシャ神話に関する本じゃ。これは日本神話じゃな。これはロシアの格言集。嬢ちゃんはここの本は買わんからな。あの子は立ち読み専門じゃ。ここの商売は成り立たんよ」
 オレはけっこう困っていた。老人てのはとかく愚痴が多い。何とかしてオレのペースに乗せて、さっさと会計を済ませてしまいたかった。
「あ、あの」
「何じゃね」
「あの、さっき……オレが欲しがってる本がこれだって、どうして判ったんですか」
「ああ、そのことかね。簡単じゃ。先刻学生が16冊の本を売りにきたんじゃが、わしはその本をあの棚に並べたんじゃ。それでじゃよ」
 オレにはもちろん、老人の言うことは判らなかった。だけどそれきり、老人は話をしようとせず、レジに向かって歩き出したので、オレはそれ以上追及しなかった。
 金を払って見回すと、野草の姿が見えなかった。
「外を探してみなされ」
 老人は言うと、意味ありげに笑った。やっぱりオレには、この老人は好きになれなかった。軽く会釈して出口に向かう。