蜘蛛の旋律・6
 野草の案内で、オレはどうやらその本屋に向かっているようだった。場所は駅の近くらしい。でもこの駅なら、オレが書店回りをするときによく来る駅だ。5つの本屋と1つの古本屋を知っている。すっかり開発しきったと思っていたのに、まだもう1つ古本屋があっただなんて、オレには信じられなかった。それでも、野草には慣れた道らしい。
 オレの斜め前を歩きながら、迷いもせずに歩いて行く。細い路地や私道をくねくね入っていくと、確かに、古本の看板と共に、その本屋は存在していた。野草は看板を確かめるように見上げたあと、一度オレを振り返ってから、中に入っていった。
 本屋の中は古臭いがけっこう広かった。本の壁は5つあったし、2階もあるようだ。漫画はない。この全てを探すのは、骨が折れそうだ。オレは野草にうしろから声をかけた。
「どのへんにありそうか、判るか?」
 野草はあごで奥のレジを指した。
「あたしよりあの人の方が知ってる」
 オレはちょっとむかついたが、ここまでつれてきてくれたのは野草なのだ。オレは黙って、レジに座っていた老人のところまで歩いていった。
 古本屋にいかにも似合いというような、痩せた老人だった。オレが近づいて行くと、ゆっくりと顔を上げ、眼鏡をそっと押し上げた。何故か非現実的な、不思議な気分がした。老人の雰囲気は、まるで生まれたときから老いていて、もう何百年もこの椅子に座って古本を見つめている、そんな感じがあった。その老人が、オレを見て何故か、にやっと笑った。
「本をお求めかね?」
 こんな、当たり前の言葉なのに、オレはどきっとした。そうだ、オレは本屋に来たんだ。本以外に何の用があるだろう。
「ええ、そうです」
「じゃあ、こちらへ」
 オレはこの老人の雰囲気にのまれていた。老人は立ち上がって、ゆっくりと歩いていく。オレは本の題名を言っていなかった。