蜘蛛の旋律・4
 野草は無口な女だった。部活中もあんまり人と話をしようとしなかったし、いつもこうやって本を読んでいるか、自分の小説をもくもくと書いていた。自分専用のワープロを持ち込んで、ただキーボードを打ち続けている。文芸部の中でも、彼女を好きな人は、ほとんどと言っていいほどいなかった。
 だけど、彼女は小説が上手だった。短編小説は毎月の会誌でもかならず載せている。センスがいいし、登場人物が生き生きとしていて、まるで生きて動いているかのようなのだ。顧問の先生も絶賛している。雑誌に投稿もしているって噂だ。だけど、彼女のペンネームの載った雑誌はまだ見たことがないから、こんなにうまい小説でも、まだまだプロには程遠いってことなんだろうか。
 オレが読んだことある話は、長編では3つほどあった。美人の女のでてくる(確かシーラとかいった)スパイ物と、前世の記憶の残った巫女が魔と戦うのと、もう1つ、やたらと長いので読むのに苦労した、最初のスパイ物の組織と敵対する組織の話で、これはきっと、文庫本にして2冊分くらいはあっただろう。これはけっこう読みごたえがあった。全部が全部印象的な話で、特に、主人公の女が魅力的だった。本人があんまり魅力的でない分だけ、よけいにオレの気を引いたのだ。
 野草は本を読んでいる。オレは自分の読書中に話しかけられるのは好きじゃなかったから、野草もそうだろうと思って、話しかけることはしなかった。オレは暇だったので、野草の真剣そうな顔を見ながら、タレ目だなあとか、こんなに前髪長くて、目が悪くなったりしないんかなあとか、そんなことを考えていた。暫くすると部長やら副部長やら主だった連中が集まってきたので、野草も読書をやめて、今日は6人で部活が始まった。