蜘蛛の旋律・5
 部長がなあなあのまま、今日の部活の終了宣言をしようとしたとき、オレは今日の本当の目的をみんなに発言した。
「くらがね書房の『蜘蛛の旋律』って本なんだけど、知らない?」
「名前は聞いたことあるな。 ―― 雑誌の投稿欄にあった」
「そう、それ。オレ読みたくてさ。誰か知らない?」
「さぁ、判らないな」
 やっぱり、みんな知らなかった。オレも相当探したもんな。諦めるしかないか。なんて思って、帰ろうと思ったら、ふいに、うしろから呼び止められたのだ。
「なに? 野草」
 野草はあんまり人と視線を合わせようとしなかった。ちょっと横を向きながら、ぼそっと、言ったのだ。
「あるかもしれない」
オレはびっくりした。
「え? ほんと?」
「期待しない方がいいけど、あたしがよく行く古本屋は、変な本ばっか置いてある。そんなに欲しい本なら、置いてあるかも」
 野草の言葉は、少し変だった。だけどオレには気付かなかった。あの本があるかもしれない。そのことで、オレの頭は一杯だった。
「それ、どこにあるんだ? 場所を教えてくれる?」
「教えてもいいけど、たぶん行けないと思う。奥まったところにあるから。案内してあげるよ」
 オレは、オレの欲しい本のために野草の時間をつぶすのは悪い気がしていた。野草には読みかけの本がある。早く帰って読みたいに決まっているのだから。
「いいのか?」
「一度案内しとけば、次のときは1人で行けるだろうから」
 一応、これは野草なりの優しさの表現なんだろう。オレが気を使わないように、こんな科白を言ってみる。でもオレに言わせれば、ぜんぜんフォローになってないんだけどね。