蜘蛛の旋律・3
 オレは高校2年生の巳神信市。子供のころからの本好きがたたって、今は文芸部に所属している。なにしろ本が好きで、週に5冊は読んでいる。手元に読んでいない本が最低1冊はないと耐えられない、だけど、読んでいない本が1冊でもあると読んじゃわないと気が済まないっていう、どうしようもない性格なんだ。
 小学校のころの愛読書は百科事典だった。中学のころから小説に手を出し、部屋の中には既に千冊を超える小説がある。足繁く図書室に通い、友達に言わせると、まるで彼女にでも会いにいくかのように図書館に通うんだそうだ。だからと言って友達が少ない訳ではないと思う。運動だって人並みにできるし、だから、青白い顔をした内気な少年をイメージしてもらっては困るかな。見かけはごく普通のやんちゃな高校生だし、よく笑い、誰にでも声をかける。一般的な、ただの高校生なんだから。
 2学期の中間試験が近いころだった。明日から部活が休みになってしまうので、今日は出ないとならないと思った。もちろん、例の本のことをみんなに聞いてみたかったからだ。文芸部の奴らはみんな本が好きで、オレの知らないことでも知っていることが多い。もしかしたらあの本のことも……なんて思ったら、けっこう気分が乗ってきて、放課後一番に活動場所である地理準備室に駆け込んだ。
 オレがトップかと思ったら、部室には既に、同じ2年の野草薫が座っていた。
「ちわ」
 オレが声をかけると、野草は振り返って会釈をしただけだった。