蜘蛛の旋律・2
 最近のオレの最大の愛読書は、読書関係の雑誌だった。内容のほとんどを読者の投稿で占めているという、金のかかってなさそうな雑誌だ。投稿の短編小説や、ある本についての討論、それから、最近読んだ本でおもしろかった本の感想を募集して、掲載していたりする。3度の飯より読書が好きっていうオレには、まったくもって堪えられない雑誌だった。
 その雑誌の中に、オレはやたらと興味を引く本を見つけたのだ。題名は『蜘蛛の旋律』。たまたまその本について、3人の読者からの批評が載っていた。
―― 主人公の持つ愛情の深さ、崇高さに心から感嘆しました。自分のこれからの生き方の指針として行こうと思います。(神奈川県 大三)
―― 虚構の世界を見事に描ききった、質の高い作品だと思う。未来の現実社会と精神社会とを暗示した、すぐれた作品。(熊本県 会社員)
―― 人間の進化に関する本で、新しい説を示唆してくれました。もしかしたら学会で噂になるのでは。(香川県 大学院)
 オレはものすごく、この本が欲しくなった。なぜってそれは、3人の書いていることがまるっきり食い違っていたから。愛情、虚構の未来、進化、この3つを合わせ持つ作品ていうのは、一体どんな本なのだろう。オレは久しぶりに、わくわくしていた。
 休み時間に友達に聞いて回った。知っている本屋全部回って、出版社に問いあわせてもらおうとしたけど、もともと無名の出版社で、知っている本屋は1つもなかった。近くで最大の本屋にも行ったのに、結局捜し当てることは出来なかった。
 こうなるとオレも負けずぎらい。絶対に読んでやるといきまいて、投稿雑誌の出版社にも問い合わせたが、返事は散々なものだった。その本を出してすぐに、その出版社は倒産しているというのだ。それが半年も前のことで、経営者の行方も判らず、もちろん本の行方も判らない。作者もどこの誰なのか判らない。オレはこの本を諦めざるを得なかった。
 だからオレは、火曜日の部活の日を待って、オレの所属するクラブ、文芸部の仲間に、最後の望みを賭けてみようと思ったのだ。