永遠の一瞬・65
 オレはずっと、シーラを泣かせ続けてきたような気がする。

「少しは落ち着いた?」
 だいぶ泣き声が穏やかになってきたから、オレは訊いてみた。シーラはちょっとぶうたれたみたいにオレの胸を叩いたりしてる。初恋の相手としては、オレはあんまりふさわしくはなかっただろうな。シーラも趣味が悪いよ。世の中にはシーラに似合いのいい男だって、たくさんいるだろうに。
「シーラ、傷に響いてるんだけど」
「……あたしをフッた罰だもん」
「オレが悪いのか?」
「あたしが悪いんじゃないんだからサブロウが悪いんだもん」
 ああ、そうだな。シーラはぜんぜん悪くない。だったら悪いのはオレだ。オレはいつでもシーラを悲しませてた。
「……どうしてだよ。サブロウは他の女の子にはすごく優しいじゃない。誰も断わったりしたことないじゃない」
「ひょっとして、断わられると思ってなかったのか?」
「付き合ってもくれないなんて思わなかった。……なんで? どうしてあたしだけみんなと違うの?」
 そんなこと言われてもな。どっちかっていうとオレの方が訊きたいよ。なんでシーラにはオレだったんだろ。あれだけ意地悪して、泣かせて、そんな奴に恋してもぜんぜん楽しくなかっただろうに。
 オレが答えなかったからか、しばらくシーラはじっと考えてるみたいだった。そしてやがて、顔を上げてそう言ったんだ。
「ねえ、告白した記念に、キスしてもいい?」
 あのなあ!
「ダーメ! ……どこをどう代入したらそういう答えになる訳?」
「思い出に1回だけ抱いてくれるとか」
「ぜーったいイヤだ!! たとえ明日世界が終わるとしてもお前を抱くのだけは嫌だ!」
「……なんでそんな言い方するんだよ……」
 悪かったよ。だけどオレはシーラに優しくなんかできない。シーラはオレにとって、他のどうでもいい女とは違うから ――
  ―― シーラ、意地悪してごめんね。恋人になってあげられなくてごめんね。君の理想の、優しくてかっこよくて、わがままなんでも聞いてくれるような男になれなくて、ごめんね。
 だけどオレは、世界で1番、シーラのことが好きだよ。
 君に出会えて、ずっと傍にいられて、オレは本当に嬉しかったんだ。

 やがて、シーラは動きを止めて、光と色を失った。
 まるで砂でできた人形のように、音も立てずに、崩れてゆく。
 オレが今まで見ていた風景も、少しずつ崩れて、消えていった。
 オレ自身も消えて、あたりは暗闇に包まれた。

 そして、一瞬のうちに、視界はまぶしい光に包まれていた。