永遠の一瞬・63
 シーラと同じチームになりたいって思ったあの頃は、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。一緒にいたらたぶん楽しくて、何かあったら助けてあげられる。ずっとずっと楽しく過ごしていられる。子供だったオレは、ただそれだけを思ってた。
 シーラの気持ちに気付いたのって、いつだったんだろ。高校に入る前くらいかな。少なからずオレはショックで、しばらくシーラを遠ざけて、他の女と遊びまくってた。そうすることでシーラに嫌われるならその方がマシだったんだよな。タケシがシーラを好きなのは知ってたし、タケシがシーラにふさわしい男だって、オレは判ってたから。
「シーラ、少し状況を教えて。今はいつなんだ?」
 シーラはずっと気持ちを隠してる。だけど視線はすべてを告白してる。オレじゃなくたって判るよ。
「うん、今は日曜日の2時半だよ。サブロウ、12時間以上寝っぱなしだった」
 じっとオレを見てる。
「シーラは? 少しは寝たのか?」
 オレは視線に耐えられなくて、必死で言葉を探してる。今の状況が恐ろしいから。シーラがその言葉を口にしそうだから。
「眠れないよ。サブロウが苦しんでるのに眠れる訳ないじゃない」
 タケシ、早く戻ってきてくれよ。
「だったら少し寝なさいよ。オレはもう大丈夫だから」
 じっと、見ている。
「……お願いだからあたしを邪魔にしないでよ。……あたし、あたしね……」
  ―― たぶん、シーラをはぐらかす方法はあったと思う。
 オレはその手の話術はひと通り習得して、更に磨きをかけてもいたし、シーラの思考パターンはわりと読みやすいから、今までは楽にはぐらかしてきた。この状況をどうにかするくらいのこと、オレにはできる。シーラを操ることくらい、オレには簡単なんだ。
 だけど ―― どうしてだろう。オレはこのとき、シーラの言葉をさえぎることが出来なかった。
 ずっと気持ちを隠してきたシーラ。訳もなくオレに避けられて、はぐらかされて、邪魔にされてきたシーラ。この子は、オレが他の女と遊びまくるのを、いったいどんな気持ちで見てきたんだろう。独りで泣いたりしたのかもしれない。オレの気を引くためにタケシと仲良くして見せたりしたのかもしれない。
 シーラが健気で、愛しくて、かわいそうだった。これ以上傷つくシーラを見たくなかった。シーラが幻だって、オレは知ってる。それを言わせてしまえばオレがシーラの傍にいられなくなることも。
 だけど、たとえそうでも、オレはこれ以上シーラを苦しめたくなかったんだ。 ―― もういい。この13年間は、オレにはすごく楽しかったから。
「あたし、ね」
 オレは表情を緩めて、シーラがその言葉を言いやすいように僅かに微笑んだ。
 泣きはらしたシーラもすごく綺麗だ。
「……あたし、ずっと、サブロウのことが好きだった。……ずっと、小さいときからずっと」
 オレは、時を刻む砂時計の砂が、すべて落ち切った瞬間を感じた。