永遠の一瞬・64
 告白した直後のシーラは目をまん丸に開いて、呼吸さえ止まってる感じだ。たぶん、オレの一言を待ってるんだろう。オレは大きく息を吐いて、緊張感をほぐそうとした。だけどダメだ。オレの緊張はほぐれたけど、シーラの緊張をほぐすところまではいかない。
「……なんだかそんな科白を言われそうな予感はしたんだよな。……で? 今は違うの?」
 シーラは一瞬何を言われたのか判らなかったらしい。だけどすぐに、自分が過去形を使ったことと、オレが判っててシーラをからかおうとしてることを悟ったみたいだ。ちょっと怒ったように口を尖らせた。
「なんでいつもそうなんだよ! ひとが真面目に告白してんのに!!」
 それもこれもひとえにオレのキャラクターなんだよな。どうもシーラに対して真面目に振舞うのって苦手で。
「判った判った。……で、答え、聞きたい?」
 オレがうって変わってシーラを覗き込むようにしたから、シーラはまた息を飲む。ちょっとためらうように視線を泳がせたけど、やがて、首を1回上下に振った。
 オレも、少しだけ言葉に迷った。
「 ―― ごめんね」
 そう、オレが言った瞬間は、シーラの表情はそれほど動かなかった。
 たぶん、言われた言葉を飲み込むのに、かなり時間がかかったんだと思う。オレは残った左手でシーラの頭をなでて、感情がスムーズに流れるように手伝った。だんだん飲み込めてきたんだろう。目を伏せて、唇を歪ませた。
「シーラ、泣かない」
 オレの言葉でようやく泣くことを思い出したのか。シーラは小さな嗚咽を漏らして泣き出した。かわいいと思う。独りで泣かせておくのがかわいそうで、オレはシーラを引き寄せて、胸を貸した。
 遠慮がちにオレの胸に取り付いて、シーラはしばらく泣いた。シーラが泣くのはこれで最後だ。なんか、オレはずっとシーラを泣かせ続けてきたような気がする。
「……どうして……?」
 小さな声は直接胸に響いた。
「ごめんね」
「なんで? どうしてあたしじゃダメなの?」
「……ごめんね」
「それじゃ判んないよ」
 ……だよな。判ってたけど、オレはバカみたいに同じ言葉を繰り返してた。
「あたしが子供だからダメなの?」
 そんなの、子供はすぐに大人になるもんだ。別にそんな理由で謝ったりしないよ。
「それとも……あたしがヴァージンだから?」
 ……そういう理由で断わる男はあんまいないと思うけど。
「ごめんね」
 オレが何も言えないことを、どう解釈したのか、それは判らない。
 オレの胸に取り付いたまま、シーラは盛大に泣き声を上げた。