永遠の一瞬・61
 その部屋の扉は、いつも閉ざされていた。
 白い廊下の突き当たりにある白いドア。扉には赤い文字が書いてあって、読むことは出来ない。「関係者以外立入禁止」 ―― そうか、ここはあの場所だ。まだ4歳だったオレが、入ってみたくてしかたがなかった秘密の扉。
 子供の身体はその小さな隙間を通ることが出来た。ドキドキしながら中に入ると、たくさんの書類といくつかのパソコン。扱い方はちょっと前の授業で習ったばかりだった。スイッチを入れて、どこをどうしたのか。入力画面に自分の名前を打ち込んでみた。
 その時出てきた画面を、オレはすべて記憶したんだ。読めない漢字も映像として記憶した。どうしてそんなことが出来たんだろう。オレは部屋を元に戻して、自分の部屋に戻って、覚えたそれを全部紙に書き出した。
 誰も起きてない真夜中に、秘密の紙を広げて、辞書を見ながら漢字にふりがなを振った。それでも判らない言葉はたくさんあった。その時オレに理解できたのは、たったひとつだけ。紙は小さく切り刻んでトイレに流した。
  ―― シーラと同じチームになりたかった。
 シーラはひとつ年下だったから、本当ならぜったい同じチームにはなれないはずだった。だけどオレはどうしてもシーラと同じチームに入りたくて、つたない言葉で必死に駄々をこねた。それが悪かったのかもな。オレの学年は1年遅れて、シーラと同じチームになることは出来たけど、それからしばらくしてオレは狙われ始めたから。
 これで最後か。オレは殺されて、いなかったことになる。シーラのために何も出来ないまま ――
  ―― ダメだ! まだ消える訳にはいかない!
 オレはまだシーラが幸せになるところを見てない。まだ足りない。13年ぽっちじゃ、ぜんぜん足りないんだ。
「う……いってぇ……!」
「タケシ! サブロウが……!」
 オレが引き戻されて最初に聞いたのは、シーラのその声だった。身体がズキズキ痛んで意識がはっきりしない。そのままかなり長い時間、自然に目が開くのを待った。オレの寝起きが悪いのはシーラもタケシも知ってるから、そうやってオレが努力してる間も、じっと黙って待っててくれた。
 やがて目を開けると、目の前にはシーラの涙ぐんだ顔。その前にもそうとう泣いてたなこれは。真っ赤に腫れて、すっかり容貌が変わってる。
「サブロウ……、目が覚めたの?」
 ちゃんと声が出せるかな。軽く咳払いをして、出来るだけ普通の声になるよう気をつけながら、オレは言った。
「目の前に女神がいるってことは、ここは天国?」
 オレの言葉に、シーラはふっと笑顔を見せた。
「タケシ、サブロウが復活した」
「ああ、……らしいな」
「ほんとによかったよぉ……」
 シーラは大粒の涙をこぼして、オレが寝ているベッドに突っ伏すように泣き崩れた。