永遠の一瞬・59
 ここまでは完璧だ。すべてが予定通りに運んでたし、本部が動く気配もない。仕事自体は簡単な方で、機材の接続作業に3分、ファイルのダウンロードに約5分、片付けて脱出するのに3分、侵入からだと合計15分程度で完了する。この程度の仕事なら過去にいくらでも成功させてきた。オレたちはそれほど優秀じゃないし、年齢的にも熟練というほどのスターシップじゃないから、本部もややこしい仕事は回してこないんだ。本部が1番恐れてるのは、仕事に失敗して逮捕されたメンバーから組織の全貌が漏れることだったから。
 オレが運んできた機械にはすでにコンピュータのパスワードが記録されてて、接続さえ誤らなければ自動的にダウンロードを始めてくれる。オレは機械の表示を確認して、作業が順調に進んでることを知った。記録が完了すればあとはこの機械を本部に持ち帰るだけだ。解析その他は本部が勝手にやってくれる。
 やがて機械が止まって、オレは接続を外す作業にかかった。それもすぐに終わって、きた道を脱出する。ドアに鍵をかけ、窓を開けて水道管に取り付く。その時だった。突然右腕に痛みを感じたオレは水道管から手を離してしまったのだ。
 落ちてゆくのは一瞬だったはずなのに、ずいぶん長く感じた。すぐに腰の部分が引かれてぶら下がる格好になる。命綱がなければ地面に叩きつけられて命はなかったかもしれない。だけどそれどころじゃなかった。右腕から全身に渡ってすさまじい激痛にみまわれたから。
「っくっ……そぉ……」
 落ちたせいで間近になった2階の窓に滑り込んで命綱を外した。廊下に寝転がるようにして腕を見る。突き刺さっていたのはボウガンの矢だった。たぶん毒が塗ってある。そうじゃなければたかがボウガンがこんなに痛いはずはない。
「……タケシ……」
 異変に気付いたのだろう。タケシからのいらえはすぐにあった。
『どうした、サブロウ、しっかりしろ!』
「……撤収……何分だ……」
『撤収だな! 1分で完了する』
「窓の……下……」
『判った! 待ってろ、すぐに行く!』
 タケシを待っている間、オレは落ちた血液を衣服でぬぐった。こんなところに証拠を残す訳にはいかない。身体は既にかなり熱を持ってるらしくて、ドクドクと早い鼓動に震えてる。痛みに気を失いそうだ。だけど今は矢を抜く訳にもいかない。タケシ、早くきてくれ。
『サブロウ! どこにいる!』
 声はマイクに入った。タケシはたぶん窓の下にいる。確かめもしないでオレは窓枠を乗り越えた。
  ―― どさ……。
 さすがに窓を閉めることは出来なかった。
 タケシはオレを肩に背負って引きずるように歩き始めた。何も訊かない。黙ってオレを受け止め、シーラに指示を与えながら車までの道のりを急いだ。オレは気が気じゃなかった。狙撃手がオレにとどめを刺すために再びボウガンを発射して、それがタケシに当たるかもしれなかったから。
 だけどその心配は単なる杞憂に終わって、タケシがオレを後部座席に運び込んだあと、ワゴン車は発進していた。