永遠の一瞬・58
 シーラが車のスピードを落として、やがて静かに停車した。助手席からタケシがほとんど音を立てずに滑り出してゆく。再び走り出し、2回角を曲がって、表通りで停車。その間に助手席に移動していたオレは、誰にも見られていないことを確認したあと、素早くビルの玄関前に立った。
 昨日作っておいた合鍵で硝子扉を開け、防犯装置が働いていないことを確認して中へ。入口の温度センサーは気にしないで通過。背広の内側につけてある小型マイクに声を入れた。
「シーラ、聞こえるか?」
 間もなく、シーラからの反応があった。
『聞こえるよ』
「待機場所は予定通りか?」
『変わってない。安心して』
「了解」
 たぶんシーラも判ってるんだな。盗聴器をはばかってか、余計なことは一切言わなかった。
「タケシ、首尾は」
『機材の設置は終わった。こっちは任せろ』
「了解。頼りにしてるよ」
 そんな会話を交わしながらまずは2階への階段を上がった。上がり切ったところにも温度センサーがついている。それも通過して、階段からフロアへの扉の鍵を開ける。ここまで行くとセキュリティ会社に自動的に通報がいくことになってるんだ。
 思った通り、通路から壁を隔てた会社の電話が鳴り響いた。オレはその会社に入る鍵は持ってない。しばらく通路で待ってると、4回ほど鳴ったところで電話が取られたのかベルの音が消えた。
 この電話を取ったのはタケシだ。タケシはこのビルの配電室に潜入して、電話回線をすべて手持ちの機械に繋げてるんだ。
 タケシが電話を終えた頃を見計らって、オレは通路からの窓ガラスを開け、ビルの外へ顔を出した。
 そこはビルとビルの間で、隣のビルとの隙間は僅か50センチほどしかない。そんなところに窓があるのも変だけど、たぶんこのビルが建った頃は隣はビルじゃなかったんだな。今回のシーラの狙い目が、実はここなんだ。下から這い上がるのはオレには無理だけど、ここからなら水道管が通ってるから、隣のビルとの隙間に身体を寄せて4階まで伝うことが出来るんだ。
 オレは水道管に命綱を絡ませて、少しずつ上っていった。2階分の落差は約6メートル。とりあえず鍛えてはいるけどタケシほどじゃないからな。体重に機材の重さがプラスされてることもあって、辿り着くまでにかなり体力を消耗することになった。
 4階通路の窓は、オレの催眠術が成功した証か鍵はかかってない。身体を滑り込ませて、いよいよ目的のプラズプランニング社に入った。
 目的のコンピュータの電源を入れて、僅かな明かりを頼りに、オレは持ってきた機材を繋ぎ始めた。